空間芸術TORAM 展示について(対談)
きはらごう(現代テンペラ画家)
田畑豊(空間芸術TORAM代表・総合アートプロデューサー)
九州随一の大都市である福岡市中洲川端に拠点において活動する「一般社団法人空間芸術TORAM」は数多くの公募展を運営している団体で、中でも「躍動する現代作家展」は2023年11月の国立新美術館で第12回目を迎える代表的な国際公募展である。本団体の代表理事であり、展覧会の企画、立案、運営など全てに携わる総合アートプロデューサーの田畑豊が、設立当初からの展覧会の特色や思いを語るインタビュー。本団体の理事で展覧会のアートディレクションをする傍ら、現代テンペラ画家として海外でも活躍する現代テンペラ画家きはらごうと、展覧会の特質すべき特徴や美術館の公募展を運営するにあたって、作家と観覧者が共に楽しめる展覧会の空間づくりの秘訣について語り合った。
| 良いものに出会う能力
田畑 思い込んだらまっしぐらという性格でもありました。その中でもアートは大好きで、作品や作家にとても興味がありました。元々、幼少期から画家になりたいと思っていましたので、絵の魅力に取り憑かれているような幼少期を過ごしました。成長して思春期になりROCKやR&Bなどの音楽と出会い、ギターを弾いていくうちに音楽の魅力に惹かれて、どっぷりと浸かってしまって(笑) 気付いたら上京してプロのギタリストとなっていました。東京では、毎日のようにライブハウスでガンガン演奏していましたね。
きはら すごいですね。幼少期から画家になりたいと思っていたなんて。私は今、画家をしていますが、高校生の時に絵に出会ってからこの世界を知ったので。幼少期からアートに興味がある小学生はなかなかいませんよ。でも、思春期に音楽に出会ってミュージシャンを目指そうとする気持ちはすごく分かります。あの頃出会った音楽って、ずっと残っていく財産みたいなものですよね。
田畑 そう、思春期に出会った音楽って、何年経っても揺るがない。しかも、あの時代に一流と言われる音楽に出会うことができたのは、運がいい。博多で育った僕には、音楽がすごく身近に感じることができたから、自然と音楽の道に行けたのかもしれないし、良いものに出会う才能があるというか、運がいいというか、そういうものが元々あったのだと思っている。上京してすぐに一流のライブハウスでギターを弾いて演奏して稼ぐことができたのも、良いものに出会う能力があるからだと思っている。
今は、「総合アートプロデューサー」という仕事をしているけど、これってまさに良いものに出会う能力をもっていないと成り立たないような仕事ですから。
きはら そうなのですね。確かに良いものに出会えているのは能力というより才能という感じで、伝わります。ところで、「総合アートプロデューサー」ってあまり聞きなれないですけど、具体的にどんなことをしているのですか?
田畑 これは実は、僕が作った名称なのですが、つまり、今、「美術画廊410ギャラリー」という画廊を経営していて、常に美術作家のプロデュースをしている。それに加えて、「躍動する現代作家展」「カンカク展」など、年間に3〜5回程、国立新美術館や福岡アジア美術館などで国際公募展を企画・運営している。国際公募展なので、毎回、その都度、美術作家を公募で集めて展覧会をしている。また、アートに関してのイベントやプロジェクトには、たくさんのアイディアを持ち合わせているから、様々なことを繋げることができる。僕は音楽をやっていたのでミュージシャンとの繋がりも持てるし、美術作家などのアーティストの気持ちも痛いほどわかる。そういったそれぞれのアートを総合的に含めてプロデュースしていくことが今の僕の仕事「総合アートプロデューサー」なのだと思っています。
【きはらごう】
現代テンペラ画家
1975年生 鹿児島県在住
九産大大学院芸術研究科美術 修了2000
フランスパリ美術留学2000〜2003
高等学校美術教諭として勤務2003〜2021
合同会社GoART代表
一般社団法人空間芸術TORAM理事
○毎年全国各地で個展開催
博多阪急、鹿児島山形屋などの百貨店
東京、福岡、鹿児島、パリ、他35回以上
グループ展他
(国立新美術館、福岡アジア美術館、福岡県立美術館、石橋美術館、福岡市美術館、鹿児島市美術館、黎明館
【田畑 豊】
総合アートプロデューサー
1974年生 福岡県在住
一般社団法人空間芸術TORAM 代表理事
美術画廊410Gallery 代表
ARTDAG 代表
幼少期より画家を目指し、同時に父親の影響で8歳からギターを始める。19歳でプロギタリストとして活動。20歳で東京へ活動拠点を移し、バンド活動と並行して数々の著名ミュージションとセッションやライブギタリストとして参加。30歳よりサラリーマンを経験し、日経新聞にて年末商戦売り上げ日本一として掲載される。35歳より芸術団体の国内外、展覧会企画担当となり2016年より独立して現在に至る。
背景は一般社団法人空間芸術TORAMの実際の展覧会風景。作品と作品の空間を空け、大きさや作品のパワーバランスなど工夫されて見やすい展示となっている。背景にあるオレンジとグリーンの作品はきはらごう氏の作品。
| 作家と観覧者が共に楽しめる空間づくり
きはら 納得です。画家の立場からですと、やっぱり、作家の気持ちや立場が分かる方にプロデュースしてほしいと思いますね。しかも、実際の展覧会を見ると作家や来場者など、様々な視点で展覧会を構成しているのだと感じます。しかも、空間芸術TORAMの美術公募展は、観覧者の皆さんが口をそろえて「展示がとても見やすい展覧会」だとおっしゃる。これには、何か秘訣があるのでしょうか?
田畑 展覧会で一番に大事にしているところは、やはり見にきてくれるお客様、つまり来場者の視点です。美術作家や参加アーティストも多く観覧していただいていますが、その人たちも観覧者ですので、展覧会全体を俯瞰して見つつ、この展覧会で観覧者がどのように感じるかということを常に意識した展示の方法にこだわっています。特に美術館は天井高もありますし、日常では味わえない空間の中で展示されるので、会場の大きさを踏まえ作品の展示の高さやキャプションの高さを揃えています。そこが、見やすい展覧会だと感じられる一因だと思っています。
きはら 確かに。僕は、作品を出品する側なので、他の公募展に出すことが多いのですが、これほど多種多様な作品が一堂にワンフロアで展示されているのに、すーっと、何か自然と入ってくるようなそんな雰囲気がありますよね。そう言った展示の配慮もあるのかなと。
田畑 そうですね。確かに。作品は現物を間近で見ると、分かってくることが多いです。応募の際に写真を添付してもらうのですが、それじゃ10分の1も分からない。やはり、実際に見て感じることから始まる。作品の雰囲気を見て、色味や大きさ、作品の内容などを考えながら、展示スペースの中で入口から出口までストーリーを作っていくような感じで配置する。アーティストの想いがこもっている作品ですから、一人一人の作品がそれぞれで生き生きと躍動できるように展示することを心がけています。
| 空間芸術TORAMがやってみたいこと
きはら なるほど、それが秘訣ですね!私は、長年絵を描き続けて、画家として様々な公募展に出品していますが、それは他の公募展にはない空間芸術TORAM独自の工夫や配慮だと思います。私はフランスに3年間美術留学をしていましたが、美術館に行くと展示に対する考え方や想いのようなものがヒシヒシと伝わってくる展覧会がほとんどです。そう言った意味では、フランスのような展覧会の作り方をしているのではないかと感じました。日本の展覧会はある意味、作品自体の主張を大事にしすぎるあまりに、展覧会のストーリー的な意味づけを見失っていることがよくあると感じています。空間芸術TORAMがしようとしていることは、まさに、現代作家に焦点を当てた展覧会であり、様々な表現方法をもった作品を同じ空間に収めることで、今の現代社会を反映させているような展覧会を作っていると思います。
田畑 今、少しずつですが、僕のやってみたかったことや理想に近づいてきている展覧会になりつつあります。国際公募展をしていると、いろんなことがあります。毎回、どんな作家が集まってくるか分からない。本音でほんとに不安で仕方ない時があります。でも、展覧会をやってみると必ず毎回のように輝いている作品や躍動している作家に出会うことができる。ほんとに、毎回素晴らしい作品や素敵な作家に出会います。だから長年、企画・運営していて毎回すごく楽しい。
ついでに言うと、僕は、音楽やっていたから分かるのですが、バンドマンは、音楽で同調して良い演奏を奏でる。美術も多種多様の作家アーティスト同士の繋がりをもっと密にしていくと、何かすごいものが出来上がるのではないかと思うのです。そんなものをもっと大きな形で作っていきたいと思っています。
きはら そうですね。美術はやはり一人の世界ですから、一人にこもりがち。一人の世界を突き詰める必要性は美術ではとても大事です。でも、展覧会の時には、作家同士の繋がりを積極的に求めてもいいと思います。アーティストにとってお互いが高めあうような、そんな場の共有がある展覧会の空間ができたら最高に嬉しいですね。